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6 min read AI協働コンテンツ発信

連載「AIに任せきりにしない発信をつくる」· 第9編/全21編

「誰に向けて書くか」を、1文で言えますか

刺さらない原因は、口調ではなく“あいまいな読者像”でした

直しても直しても響かない文章。原因は、対象読者がぼんやりしていたことでした。読者像を一文で具体化したら、選ぶネタも書き方も変わった。ターゲットの解像度の話を、自社発信づくりのふりかえりから一緒に。

安宅春樹 (Ataka Haruki)

— AZASLAB代表 ・ AIエージェント開発ディレクター

— Shimizu Fumio Architects Co., Ltd. 取締役

その文章は、誰の顔を思い浮かべて書きましたか

何度も書き直したのに、なぜか手応えがない。そんな経験は、ありませんか。

AZASLAB の発信を自動化するしくみをつくる中で、私はこの状態にはまっていました。AIに作らせたXのスレッドが、自分で読んでも、どうにも興味を惹かれないんです。言葉づかいを整えても、構成の順番を入れ替えても、いまひとつ。直すたびに少しはマシになる気はするのに、「これは読みたい」という芯のところには届かない。

しばらく悩んで、ようやく気づいたことがありました。問題は、文章の表面ではなかったんです。今日は、その遠回りで分かったことを、一緒に見ていきましょう。

口調をいくら直しても、届きませんでした

最初に疑ったのは、口調でした。

硬すぎるのかもしれない。もっとやわらかく、もっと丁寧に。そう思って語尾や言い回しを直しました。次に疑ったのは、構成です。結論を先に出したほうがいいのか、具体例から入ったほうがいいのか。順番を組み替えてみました。

どれも、効きませんでした。正確に言うと、少しは良くなった気がするのに、根っこの「興味を惹かれない」は変わらない。表面をいくら磨いても、磨いている対象がそもそもズレていたら、光らないんですね。

そのとき、自分が書いている文章をあらためて読み返して、ひとつ妙なことに気づきました。これは、いったい誰に向かって話しているんだろう、と。

「AIを賢く使いたい人」は、誰でもなかった

当時、私が頭の中に置いていた読者像は、「AIを賢く使いたい人」でした。

一見、悪くなさそうに見えます。でも、よく考えてみてください。AIを賢く使いたい人って、いったい誰でしょう。バリバリのエンジニアも当てはまるし、業務効率化を探している会社員も、ちょっと興味があるだけの人も、みんな当てはまります。つまり、ほとんど全員です。

全員に向けて書くと、どうなるか。誰の状況にも、ぴったりは合わなくなります。エンジニアには物足りず、初心者には難しく、興味があるだけの人にはピンと来ない。最大公約数を狙ったつもりが、結局、どの1人の心にも届かない文章になっていました。

万人に向けた言葉は、たいてい、誰の前でも止まらずに通り過ぎていく。

刺さらない原因は、口調でも構成でもなかった。その手前で、向ける相手がぼやけていたんです。

読者像を、一文にしてみました

そこで私は、読者像を1文で書き出してみることにしました。あいまいなままでは直しようがないので、無理にでも、具体的な1人の姿に絞ってみたんです。

書き出したのは、こんな1文でした。「AIで“コードを書かずに自分専用のアプリやAIエージェントを作れるらしい”と知ったけれど、どこから手をつければいいか分からない初心者」。もう少し言うと、ノーコード(プログラミングなしでアプリを組む手法)や vibe coding(AIと対話しながら作る個人開発)を始めたての人、あるいは興味はあるけれど、まだ手を動かしていない人です。

書いてみて、自分でも驚きました。同じ「AIを使いたい人」でも、ここまで絞ると、急に顔が見えてくるんです。この人は、何にワクワクしていて、何でつまずいているのか。「作れるらしい」という期待はあるのに、最初の一歩が踏み出せず、もやもやしている。その表情が、はっきり浮かびました。

一文が決まると、ネタの選び方が変わりました

読者像が一人に定まると、まず変わったのは、拾ってくるネタの選別でした。

私たちのしくみは、海外の Reddit などから困りごと(Pain)をAIに拾わせています。けれど、拾ってきた声をどう選ぶかの基準が、それまでは「なんとなく面白そう」というあいまいなものでした。これでは、いくら材料が良くても、選ぶ手がぶれてしまいます。

読者像が決まってからは、選別の問いが1つになりました。これは、あの“作りたいのに踏み出せない初心者”の、入口の悩みに効くだろうか。この問いを当てると、選別がぐっと楽になりました。高度なテクニックの話は、面白くても今回は見送る。「最初の一歩」にまつわる声を優先して拾う。基準が1人の顔に紐づいているので、迷いが減るんです。

何を書くかの前に、誰に向けて書くか。順番が、逆だったのだと思います。読者像が先に決まっていれば、素材選びは半分、自動的に決まってくれます。

同じ題材でも、語り口が変わりました

変わったのは、選ぶネタだけではありませんでした。書き方そのものも、自然と変わっていったんです。

たとえば、ある機能の説明。以前のスレッドでは、こう書いていました。「正解をブラウザに渡さない設計です」。これは、間違ってはいません。でも、製品の仕様を淡々と述べているだけで、読者がどこにいるのかを見ていない言い方です。読み手は、外から説明を眺める立場に置かれてしまいます。

読者像が定まってからは、同じことを、こう書くようになりました。「これは、あなたのアプリでも応用できます。まずは——」。違いは、読者を文章の中に招いているかどうか、それだけです。あの初心者が「自分にも関係ある」と感じられる入口を、先に開ける。1人の顔が見えていると、その人に向かって自然と手が伸びる感覚があります。

口調を意識して変えたわけではないんですね。向ける相手がはっきりした結果、語り口のほうが後から付いてきた。これは、以前 トーンは口調だけじゃないという記事で立てた仮説とも、地続きでした。あのときは「読者をどう巻き込むか」という構造の話をしましたが、その構造を決める一番手前にあるのが、「そもそも、誰を巻き込むのか」だったわけです。

解像度が、ほとんどを決めていました

ふりかえって、いちばん腑に落ちたのは、これでした。読者像の解像度が、選ぶ素材も、書き方も、まとめて決めていた、ということです。

ぼんやりした像のままだと、何を選ぶべきかも、どう語るべきかも、毎回ぐらつきます。だから口調や構成を、その都度こねくり回すことになる。でも、1人の具体的な顔が決まると、判断の軸が一本通ります。この人に効くか。この人にどう語りかけるか。問いが具体的になるぶん、答えも具体的になるんです。

もちろん、絞れば届く範囲はせまくなります。「作りたい初心者」に向けた言葉は、上級者には物足りないかもしれません。それでも、誰か1人にちゃんと届くほうを、私は選びたいと思いました。顔のない全員より、顔のある1人。その1人に届いた言葉が、結果として、似た立場の人たちにも広がっていくのだと思います。

おわりに:あなたの発信は、誰に向けたものですか

何を書くかは、書きながらでも探せます。でも、誰に向けて書くかは、書き始める前に決めておきたい。それがぼやけていると、口調をいくら磨いても、表面を磨いているだけになってしまいます。

おすすめしたいのは、たった1つ。あなたの読者像を、1文で書き出してみることです。「○○な人」と、できるだけ具体的に。職業や肩書きではなく、その人が今どんな状況で、何に困っているか。そこまで絞れると、急に顔が見えてきます。顔が見えたら、その人に向かって、もう自然に話せます。

次に何かを発信するとき、書き始める前に、1度だけ問うてみてください。これは、誰に向けたものだろうか。それを、1文で言えるでしょうか。言えたなら、たぶん、もう半分は書けています。