連載「AIに任せきりにしない発信をつくる」· 第20編/全21編
その「バズる法則」、出どころはどこですか
もっともらしい数字ほど、確かめてみる
SNSでよく見る「◯分で◯返信」「ハッシュタグは控えめに」。確かめてみたら、その多くは出どころのあいまいな言い伝えでした。もっともらしい数字を、一次情報に当ててみた話を一緒に。
連載「AIに任せきりにしない発信をつくる」· 第20編/全21編
もっともらしい数字ほど、確かめてみる
SNSでよく見る「◯分で◯返信」「ハッシュタグは控えめに」。確かめてみたら、その多くは出どころのあいまいな言い伝えでした。もっともらしい数字を、一次情報に当ててみた話を一緒に。
SNSを伸ばそうと調べると、たくさんの「法則」に出会います。「投稿して◯分以内に◯件の返信が来るとバズる」「ハッシュタグは何個までにすべき」「投稿は数時間で見られなくなる」。どれも具体的で、いかにも効きそうに見えます。
私たちも、自分たちの発信を伸ばそうとして、まずこうした法則を集めました。けれど、集めるうちに、ふと引っかかったのです。これ、誰が、どうやって確かめたんだろう、と。今日は、その「もっともらしい数字」を、出どころまで辿ってみた話をします。
引っかかったのは、数字の細かさでした。
「◯分以内に◯件」「◯%リーチが落ちる」。ここまで具体的だと、何か確かな根拠があるように感じます。けれど、よく見ると、その数字の出どころが、どこにも書かれていない。ある記事が別の記事を引用し、その記事もまた別の記事を引いている。たどっていくと、最初の一次情報にはたどり着かず、ぐるぐると同じ話が回っているだけ、ということが何度もありました。
具体的な数字は、それだけで正しそうに見えます。けれど、細かさと正しさは、別のことです。むしろ、出どころのない細かい数字ほど、いったん立ち止まったほうがいいのかもしれません。
おまけに、集めた法則どうしが、ときどき食いちがっていました。ある記事は「ハッシュタグは3つまで」と言い、別の記事は「5つが最適」と言う。投稿に良い時間帯も、記事ごとにばらばらです。みんなが確かな根拠を持っているなら、ここまで割れるはずがありません。食いちがいは、たいてい、誰も大もとを確かめていないことのしるしでした。
そこで、孫引きの記事を読むのをやめて、もとの資料に当たることにしました。さいわい、X のおすすめの仕組みは、一部が公開されています。それと、X 自身が出している公式のルール。この2つを、一次情報として読みにいきました。
すると、巷の「法則」は、つぎつぎと崩れていきました。
たとえば「投稿は数時間で見られなくなり、すぐゼロになる」。たしかに「数時間で半分」という話は実在しますが、それは昔の検索の並び順が古びていく話で、いま私たちが気にしている「おすすめ」の話ではありませんでした。しかも、その古び方には下限があって、ゼロにはならない。場所も中身も、すりかわっていたのです。
「ハッシュタグを増やすとリーチが大きく落ちる」という、よく見る割合の数字も、公開された仕組みの中には、それらしい判定も、その割合も見当たりませんでした。「返信の重みは◯◯だ」という数字も、実際の値とはちがっていて、どうやら別の数字の割り算を、そのまま重みと取りちがえたものらしい。
いちばんよく見た「投稿して15分で10件の返信が来るとバズる」という話も、公開された仕組みの中をいくら探しても、そんな具体的な引き金は見当たりませんでした。出どころをたどると、やはりグロース系のブログどうしの引用に行き着きます。一次情報、つまりつくった本人が公開したコードや、運営が出している公式の文書と、それを又聞きで紹介する二次情報は、分けて扱う必要がありました。
ひとつずつ当ててみると、もっともらしかった数字の多くは、誰かの推測が、いつのまにか事実のように広まったものでした。
では、何も確かなものは無かったのか。そうではありません。一次に当てて、なお残ったこともあります。
返信や会話が効くという方向。通報されたり、ブロックされたりは大きく嫌われるということ。機械であることは正直に開示すべきこと。自動で一斉に行動してはいけないこと。これらは、公開された仕組みや公式のルールに、ちゃんと根拠がありました。
ただ、ここでも正直でいたいのです。公開されている仕組みは、数年前の一時点のもので、その後つくり直されています。だから、これらも「具体的な数値」としてではなく、「だいたいの向き」として受け取るのが誠実です。公開された当時の数字を、いまの正解として振りかざすのも、それはそれで作り話に近づいてしまいます。分かっているのは向きだけで、正確な目盛りは、外からは見えません。そこまで含めて、お伝えしておきたいのです。確かな話ほど、派手な数字を持ちません。地味で、当たり前に見えても、崩れにくい。確かめて残ったのは、そういうものばかりでした。
それにしても、なぜ出どころのない話が、これほど広まるのでしょう。
ひとつは、具体的な数字の心地よさです。「いい感じに返信されると伸びます」より、「15分で10件」のほうが、言うほうも聞くほうも、分かった気になれます。もうひとつは、引用の連鎖です。誰かが書いたものを、確かめずに次の人が引く。それが積み重なると、出どころは消え、回数だけが信頼に見えてくる。
そして、いまはもう1つ加わりました。AIに「SNSを伸ばすコツは」と聞けば、こうした巷の話を、それらしくまとめて返してきます。AIは、世に出回っている言葉を学んでいます。だから、世に作り話が多ければ、AIも同じ作り話を、自信たっぷりに語るのです。しかも、出どころを聞いても、それらしい説明をつくってしまうことがあります。AIに確かめさせるだけでは、確かめたことになりません。最後は、人がもとの資料を開いて、自分の目で見るしかありませんでした。
そして、こわいのは、作り話を信じて動いてしまうことです。ありもしない「15分で10件」を狙って、無理に返信を集めようとする。効かない時間帯にこだわって、投稿を作り直す。確かめないまま法則に従うと、見当ちがいの努力に、時間を吸い取られます。前に書いた「測ってから語る」と、ここはつながっています。自分の感想も、巷の法則も、確かめずに動く危うさは、同じなのです。
ここで、このシリーズの主題に戻ります。
「AIに任せきりにしない」とは、AIの答えを疑うことでした。でも、それは AI にかぎりません。世間の「法則」も、もっともらしい数字も、同じように出どころを問う値打ちがあります。AIの答えも、巷の常識も、どちらも「誰かがそう言っている」だけかもしれない。鵜呑みにせず、1度、もとをたどってみる。任せきりにしない相手は、AIだけではなかったのです。
自分の頭で確かめる、という同じ姿勢を、AIにも、世間にも向ける。便利な答えや、耳ざわりのいい法則ほど、ひと呼吸おいて出どころを見る。その小さな手間が、振り回されないための、いちばん確かな守りになります。
最後に、持ち帰れることを1つだけ。
これから、SNSにかぎらず、「◯◯すると効く」という具体的な数字を見かけたら、内容を信じる前に、ひとつだけ確かめてみてください。この数字は、どこから来たのだろう、と。出どころにたどり着けるなら、信じる材料になります。たどっても、たどっても、同じ話がぐるぐる回るだけなら、いったん保留にしておく。確かめるのにかかるのは、ほんの数分です。その数分が、見当ちがいの努力に費やす何時間かを防いでくれます。それだけで、振り回される回数は、ぐっと減ります。
次の編では、こうして確かめた方針を、毎日きちんと動かし続けるための、地味だけれど大事な仕組みの話を、一緒に見ていきます。