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6 min read AI協働開発健康

連載「carb-icr 開発日誌」· 第4編/全14編

道具の名前で聞くと、答えは小さくなる

AIへの問いの立て方で、設計は動く(開発日誌 4)

新しいAIに「これで何ができる?」と聞くほど、答えはその道具の大きさに縮みます。問いの向きを、道具から課題へ変えたとき、設計が動き出した——その仕組みと、明日から使える問いの立て方を、一緒に。

安宅春樹 (Ataka Haruki)

— AZASLAB代表 ・ AIエージェント開発ディレクター

— Shimizu Fumio Architects Co., Ltd. 取締役

「これで何ができる?」という問いの落とし穴

新しいAIや便利そうな道具を見つけたとき、まず「これで何ができるだろう」と考える。ごく自然な入り方です。でも、この問いの向きが、答えの大きさを最初に決めてしまいます。今日は、道具の名前で問うことの落とし穴と、その抜け方を一緒に考えます。これは、自分の治療のための道具を自動化していく、最初の一歩でつまずいた話でもあります。

道具で問うと、答えは道具の内側に閉じる

私の自動化も、道具の名前から始まりました。ある画像AIを念頭に「写真から料理を判定できないか」と聞いたのです。返ってきたのは、できる・できないではなく、役割の整理でした。そのモデルは、指定したものを画像から切り出すのは得意でも、皿に何が乗っているかを当てるのは、本来の仕事ではない。探す対象の名前は、人か別のAIが先に与える必要がある。私は、見つける道具に、当てる仕事を頼んでいたわけです。

ここに、道具起点の問いの性質がよく出ています。「この道具で何ができる?」と聞くと、答えはその道具の機能の内側に閉じます。返ってくるのは、できる、できない、よくても「こう使えば一応できる」まで。食事の糖質を手早く知りたいという私の用事から見れば、ずいぶん回り道です。しかも、その道具が用事に向いていなければ、問いごと行き止まりになる。道具を起点にすると、道具の限界が、そのまま自分の限界になってしまいます。逆に、用事のほうから問えば、複数の手段を見比べられます。1つの道具に無理やり解かせるのではなく、その用事に向いた方法を、道具の枠を越えて選べる。問いの起点をどこに置くかで、見える地図の広さが変わります。

なぜ気づきにくいのか。新しくて強そうな道具は、用事より先に名前が目に飛び込んでくるからだと思います。話題のモデル名、機能の一覧。それを見た瞬間、頭は「これで何ができるか」を考え始める。用事のほうは、もう前からあるぶん、背景に沈んで見えなくなる。順番が、いつのまにか逆になっているのです。

課題で問うと、答えは用事の大きさに開く

ここで助かったのは、AIが「できません」で終わらせず、役割の地図を描き直してくれたことでした。識別は写真と言葉をまとめて扱えるAIに任せ、切り出しの道具は将来の精度改善に取っておく、という分担を示し、こう聞き返してきた。何を作ろうとしているんですか、と。

その問いで、私は手の内を明かしました。作りたいのは食事記録アプリではない。私はすでに、血糖・食事・インスリンを記録して、実測からインスリンと糖質の比を逆算する道具を動かしている。困っているのは、毎食、別のアプリで調べた糖質を、自分の道具へ打ち直すことだ、と。ここでようやく、課題に名前がつきました。私の用事は「写真から料理を当てる」ことではなく、「すでに動いている道具への、毎食の手入力をなくす」ことだったのです。

主語が、道具から困りごとへ移ると、解き方の候補が一気に広がりました。写真から糖質を推定するのも1つの手。すでに使っている別アプリからデータを引き出せないか、という道も見える。さらに言えば、面倒なのは糖質の転記だけでなく、食後の血糖を測り直すこと自体かもしれない、と困りごとの本体に近づいていける。道具起点では出てこなかった選択肢が、課題起点にしたとたん、机に並びました。

ここで、その困りごとの中身を具体的に書いておきます。私の毎食は、こんな繰り返しでした。センサーで血糖を見て、別のアプリで糖質を調べ、その2つを計算機に入れてインスリン量を出し、打つ。最後に、いま使った数字を自分の道具へ書き写す。同じ数字を、一日に何度も別の場所へ移しています。逆算にはこの記録が要るのですが、毎食この転記が挟まると、続けること自体が重くなる。面倒の正体は、計算の難しさではなく、同じ作業の繰り返しのほうにありました。だから本当に解くべきは、料理を当てる精度ではなく、この繰り返しをどう減らすか、だったのです。課題の名前がはっきりすると、何が本筋で何が寄り道かも、おのずと見分けがつきます。

問いの向きが、相手の働き方を決める

問いを立て直すと、AIの返し方そのものも変わりました。道具の名前で聞いていたときは、その道具の説明が返ってきます。課題で聞くと、売り込みではなく、限界の話から始まった。写真からの糖質推定は、量の見積もりと、丼の底のご飯や煮物の砂糖といった見えない糖質のせいで、研究の世界でも誤差が小さくない。だから精度を追い込むより、速く記録してあとから人が直すほうへ振るのがいい、と。これは、私がほしかった現実的な助言でした。

つまり、道具を起点にすると、AIはその道具の代弁者になる。課題を起点にすると、AIはその課題の相談相手になる。同じAIでも、こちらの問いの形しだいで、引き出せる答えの種類が変わるのです。問いは、答えを受け取る器であると同時に、相手の働き方を選ぶスイッチでもありました。

これは、AIに限った話でもないように思います。人に何かを相談するときも、道具や方法の名前で聞けば、相手はその範囲で答えます。困りごとの名前で聞けば、相手はその困りごとに合う手を、範囲の外からも持ってくる。問いの立て方は、相手の知恵をどこまで引き出せるかの、入り口の広さを決めているのだと思います。

あなたが新しい道具に出会ったら

新しくて強そうなAIや道具に出会って「これで何ができるだろう」と問いかけたなら、その問いを1度だけ裏返してみてください。私はいま、何に困っているのか、と。

道具の名前で聞けば、答えはその道具の大きさに縮みます。課題の名前で聞けば、答えは自分の用事の大きさに開きます。道具は、課題が決まってから選んでも遅くありません。むしろ、課題がはっきりしてからのほうが、ずっといい道具選びができる。最初に名前をつけるべきは、手にした道具ではなく、自分が解きたい困りごとのほうでした。

具体的には、相談の前に、困りごとを1文だけ書いておくと効きます。私はこれで、何を楽にしたいのか。私の場合は「毎食の手入力をなくしたい」でした。たったその1文が、このあとの設計のすべての出発点になります。1文に絞る効用は、もう1つあります。困りごとがはっきりすると、あとから出てくる「あれもできそう」という誘いを、その1文に照らして仕分けられる。本筋に合うものは取り入れ、そうでないものは見送る。問いの起点を課題に置くことは、最初の一歩であると同時に、迷ったときに立ち戻れる基準にもなりました。次回は、その出発点から、必要なデータがどこから手に入るのかを、出口を1つずつ確かめていった話を。自動化の設計は、賢い中身を考える前に、まわりの配管を調べるところから始まりました。


これは、自分の治療のために作っている自作自用版での話です。広く公開しているのは記録と集計に絞った carb-icr(無料・通信なし・ブラウザで動くPWA)。プロジェクトの概要は carb-icr のプロジェクトページ に。

本アプリは記録と集計の補助で、表示される値はすべて参考です。診断・治療、インスリン投与量の計算、治療パラメータの決定は行いません。投与量・治療方針は必ず主治医の指示に従ってください。