AZASLAB
← Journal
4 min read AI協働開発ふりかえり

連載「AIに任せきりにしない発信をつくる」· 第4編/全4編

「無料でできるはず」が、もう古かった話

つくっている途中で、前提のほうが入れ替わっていました

無料でできるはず、と思って進めたら、その前提自体が数か月前に消えていた。AI時代は「半年前の常識」が驚く速さで古くなります。前提を確かめることの大切さを、ある開発のつまずきから一緒に。

安宅春樹 (Ataka Haruki)

— AZASLAB代表 ・ AIエージェント開発ディレクター

— Shimizu Fumio Architects Co., Ltd. 取締役

あなたの「できるはず」は、いつの情報でしょう

何かを始めるとき、私たちは頭の中の前提に頼って動きます。「これは無料でできるはず」「あのやり方で通るはず」。たいていは正しい。でも、その前提が、いつのまにか古くなっていることがあります。

AZASLAB の発信を自動化するしくみをつくっていて、私はまさにこれをやらかしました。「無料の範囲でできるはず」と思って設計を進めていたら、その無料のしくみ自体が、数か月前に終わっていたんです。

今日は、この小さなつまずきから、「前提を確かめる」という地味で大事な習慣について、一緒に考えてみたいと思います。

「無料枠で回せる」つもりでした

自動でXへ投稿するには、その仕組み(API)を使う必要があります。設計を始めた時点で、私の頭には「無料の枠で、月にこれくらいは投稿できる」という、少し前まで正しかった知識がありました。だからコストのことはほとんど考えず、文面の質や承認の流れといった“中身”の設計に集中していたんです。

ところが、いざ投稿の段になって確かめてみると、その無料枠は少し前に廃止され、使った分だけ支払う方式に変わっていました。前提が、つくっている最中に、足元で入れ替わっていたわけです。

幸い、新しい方式でも費用はごくわずかで、計画が崩れるほどではありませんでした。痛かったのは、お金よりも、「確かめずに古い前提のまま進めていた」という事実のほうです。もし最後まで気づかず公開直前に止まっていたら、と思うと、少しひやりとしました。

AI時代は、常識の賞味期限がとても短い

これは、その仕組みに限った話ではないと思っています。

AIまわりの道具や料金、できること・できないことは、いま驚くほどの速さで変わっています。半年前のベストプラクティスが、今日にはもう違う。去年の「常識」を頼りに動くと、知らないうちに、古い地図で歩いていることになります。

知っていることが多い人ほど、自分の地図を疑いにくい。だから、変化の速い場所ほど足をすくわれる。

これは クリシンクエスト で扱う「古い常識型」の落とし穴と、まったく同じ形をしています。かつて正しかったことを、今も正しいと思い込む。本人は嘘をついているつもりはありません。ただ、情報が更新されたのに、頭の中が更新されていない。変化の速い領域ほど、この罠は深くなります。私自身がきれいにはまったわけです。

効くのは、「それ、いつの話?」のひと言

防ぎ方は、難しくありません。前提に寄りかかりそうになったとき、一度だけこう問います。それは、いつ時点の情報だろう。最新でも、同じだろうか。

特に、料金・制度・上限・できること——変わりやすいものほど、着手の前と、途中の節目で、現物を確かめます。「できるはず」を「できると確かめた」に変えるだけで、足をすくわれる回数が減ります。私の場合も、設計の段階でこの問いを一度挟んでいれば、無料枠の廃止には初日に気づけたはずでした。

実際、私の頭の中には他にも古い前提がいくつも残っていました。「このモデルは、こういう名前で呼べばいい」「このくらいのリクエストなら、無料で通る」。どれも、少し前までは正しかったことです。けれど確かめてみると、料金体系も、使えるモデルの名前も、上限も、それぞれに更新されていました。怖いのは、ひとつ間違っていると気づくと、「では他の前提も、いつのものだろう」と芋づる式に不安になることです。逆に言えば、ひとつ確かめる習慣がつくと、他の前提にも自然と目が向くようになります。

ありがたいことに、こうした「最新を調べる」作業は、いまは AI がとても得意です。「この機能、いまの料金と上限はどうなっていますか」と一言たずねれば、その場で調べてくれます。だからこそ、人間の側が「それ、いつの前提?」と問うきっかけさえつくれば、古い常識に乗ったまま走り出すのを、止められます。調べるのは AI、問いを立てるのは人間。この役割分担が、いちばん効きます。

おわりに:あなたの地図は、更新されていますか

知っていることが多いほど、私たちは自分の地図を信じて、速く動けます。それは強みです。でも変化の速い場所では、その地図がいつのものかを、ときどき確かめる必要があります。

完璧に最新を追い続けるのは大変です。でも、大事な前提に乗りかかる瞬間に、一度だけ「これ、いつの話だろう」と立ち止まる。それだけで、ずいぶん違います。

あなたがいま「これはこうできるはず」と思っていること。その情報は、いつのものでしょうか。変化の速い領域でこそ、よかったら一度、確かめ直してみてください。