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6 min read AI協働開発健康規制

連載「carb-icr 規制日誌」· 第1編/全4編

「これ、医療機器ですか」を、どこに聞くか

相談する前に、相談先を間違えない(提出編 1)

個人で作った健康アプリを「医療機器に当たらないか」相談したい。でも、どこに聞けばいいか分かりますか。窓口は1つではありませんでした。目的に合う入口の選び方を、一緒に。

安宅春樹 (Ataka Haruki)

— AZASLAB代表 ・ AIエージェント開発ディレクター

— Shimizu Fumio Architects Co., Ltd. 取締役

自分や家族のために作った道具が、思いのほか便利に育ってしまう。そんなとき、ふと足が止まること、ありませんか。「これ、人に渡して大丈夫だろうか」「ひょっとして、医療機器あつかいになったりしないか」。

私の場合は、血糖・食事・インスリンを記録する小さなアプリでした。記録した糖質をインスリン単位で割って中央値を出すだけの、計算としてはごく素朴なもの。それでも、糖尿病という病気にまっすぐ関わる以上、「医療機器プログラム(SaMD)」に当たらないかは、自分ひとりの判断で結論を出すべきではないと感じました。専門の窓口に聞こう——そう決めて調べ始めて、いちばん最初につまずいたのが、実は「どこに聞けばいいのか」でした。聞く中身を整える前に、聞く相手で迷ったわけです。

聞きたいことは1つ。でも、窓口は1つではなかった

医療機器プログラムの相談、と検索すると、まず目に入るのは「SaMD一元的相談窓口」という、いかにも頼もしい名前の入口です(2026/6 現在)。ここはたしかに便利で、次の3つをまとめて受け付けてくれます。

  • 医療機器に当たるかどうかの相談(該当性)
  • 承認申請など、薬事開発の進め方の相談
  • 医療保険まわりの相談

ところが読み進めると、注意書きがありました。「該当性」の判断そのものは、別の部署——厚生労働省の監視指導・麻薬対策課が一元的に受け付けている、と。令和3年の4月から、医療機器に当たるかどうかの相談は、これまでの自治体窓口からこの課のメール窓口に集約された、という経緯です。一元的相談窓口に出しても、結局その該当性の部分を判断するのは、この課になります。

なぜわざわざ集約したのか。背景まで読むと腑に落ちました。以前は自治体ごとに相談を受けていて、同じようなプログラムでも判断にばらつきが出やすかった。そこで判断の物差しをそろえるために、受け付けを1か所に寄せた、という流れです。利用する側からすると、これは安心材料でもあります。どこに住んでいても、同じ基準で見てもらえるということですから。

整理すると、入口は実質ふた通りありました。1つは、一元的相談窓口にまとめて出す道。もう1つは、該当性だけを、その課のメール窓口へ直接出す道です。同じ判断にたどり着くのに、入り方が2つある。最初は、どちらでも大差ないのでは、と思いました。

「いま、何を知りたいのか」で、入口が決まる

ここで効いてきたのが、自分の目的をはっきりさせることでした。私が知りたいのは、たった1つ。「いまのこのアプリは、医療機器に当たらない、という整理でいいか」。承認申請の進め方でも、保険の話でもありません。

そう言葉にすると、入口は自然に絞れました。違いは、添える書類の量に出ます。一元的相談窓口は、複数の相談をまたげる便利さの代わりに、共通の申込書に「どの相談か」の区分を選んで添える一手間が増えます。一方、該当性だけを直接の窓口に出すなら、用意するのは決められた様式と、製品の資料だけ。会社概要のような重い添付も、最小限でよいとされています。聞きたいことが該当性の一点なら、直接出すのがいちばん軽い。私はこちらを選びました。

用意するものも、身構えるほど特別ではありませんでした。様式は、いくつかの質問に答えていく1枚紙。それに、アプリの機能を説明した資料、画面のスクリーンショット、計算のしかたを書いたもの、公開しているサイトのことを添える。つまり、すでに手元にあるものを、求められた形に並べ直すだけです。新しく何かを作り起こす必要は、ほとんどありませんでした。これも、入口を軽く保てた理由の1つです。

「軽い」を選ぶのは、横着だからではありません。相手も人で、読む時間は有限だからです。余計な区分や書類が増えるほど、見てほしい一点が紙束に埋もれます。逆に、聞きたいことが1つに絞れているなら、添えるものもおのずと絞れて、相手も論点をすぐつかめる。窓口選びは、相手の読みやすさを選ぶことでもありました。

欲張らないほうが、答えは返ってくる

入口を絞ったことには、もう1つ理由があります。窓口を広く取ると、相談の射程まで広がってしまうのです。

たとえば私には、将来やってみたい機能の構想もありました。センサーの値を自動で取り込む、といった話です。でも、それを今回の相談に混ぜたら、どうなるか。担当の方の関心は「では、その機能が入ったらどう判断が変わるか」へ移り、いま確かめたい現行版の一点が、ぼやけてしまう。将来の機能は、実際に作るときに、あらためて聞けばいい。今回は現行のアプリだけに話を絞りました。

絞ることには、手続き上の裏づけもありました。相談の進め方を定めた事務連絡には、こちらの返信が一定期間——おおむね1か月——ないと、相談を終了として扱うことがある、と書かれています。やり取りは、間延びさせず、まっすぐ短く保てたほうがいい。だとすれば、最初の問いも欲張らず、一点に絞っておくほうが理にかなっています。聞くことを減らすのは、答えを早く受け取るための工夫でもあったわけです。

個人でも、聞いていい場所がある

意外だったのは、この相談が、企業だけのものではなかったことです。様式には、はじめから2種類が用意されていました。1つは医療関係者が使うプログラム向け、もう1つは、患者本人のような個人が使うプログラム向け。個人の作り手が、自分の道具について聞くことが、最初から想定されているのです。

相談そのものは無償で、決まった手順に沿って受け付けられます。身構えていたぶん、これは励みになりました。便利な道具を作ってしまった個人が、「これ、配って大丈夫だろうか」と立ち止まったとき、勝手に白黒つけて突き進むのでも、不安で固まってしまうのでもなく、正面から聞ける場所がある。その事実を知っているだけでも、最初の一歩は軽くなります。

道具の名前ではなく、自分の問いから始める

ふりかえると、私は最初、入口を「制度の側」から眺めていました。どの窓口がいちばん正しいのだろう、と。けれど順番が逆でした。先に決めるのは、制度のどれが正解かではなく、自分が何を知りたいかのほうです。

これは規制の相談に限った話ではないと思います。新しい道具や大きな仕組みを前にすると、つい「これで何ができるんだろう」と、相手の大きさに合わせて問いをふくらませてしまう。でも、手元の困りごとから始めれば、必要なものも、たたくべき窓口も、おのずと小さく絞れます。制度を前にして気後れするときほど、紙に1行、書いてみる。「自分は、何を、いま、知りたいのか」。

私の1行は、こうでした。「このアプリは医療機器に当たらない、という整理でいいか、だけを確かめたい」。それが決まってから、窓口選びは数分で済みました。逆に言えば、この1行が定まらないうちは、どの窓口を見比べても決め手が出てこなかったはずです。

もしあなたも、自分の作った道具の立ち位置に少し不安があるなら、いきなり制度の地図を広げる前に、その1行から始めてみてください。書けたら、その横に「今回は聞かないこと」も1行で書き添えておく。聞くことと、いったん脇に置くことを、自分の手で分けておくのです。問いがはっきりすると、入口は思ったより素直に見つかります。

次回は、いざ様式に向き合って気づいた、もう1つの分け方の話です。1つのアプリを、まるごと1つとして書こうとして、つまずいた——「機能ごとに分けて見る」という視点を、一緒に。