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6 min read AIプロダクト需要検証Pinterest

連載「AIと、本を売ってみる」· 第2編/全9編

届け方も、実験できる

作り込む前に、需要を見にいく

需要を確かめる前に作り込んでいた英語圏向けの企画を、いったん棚に戻しました。代わりに選んだのは、自分の本をPinterestで売ること。届け方そのものを実験にする話です。

安宅春樹 (Ataka Haruki)

— AZASLAB代表 ・ AIエージェント開発ディレクター

— Shimizu Fumio Architects Co., Ltd. 取締役

作りこんでから、「これ、誰が欲しいんだろう」と気づく

何か新しいものを作ろうとするとき、つい先に手が動いてしまうこと、ありませんか。仕様を練って、画面を整えて、中身を充実させて。気づくと、ずいぶん作りこんでいる。それなのに、いちばん大事な問いを、まだ確かめていない。これ、ほんとうに、誰かが欲しがっているんだろうか——と。

恥ずかしながら、私もそうでした。少し前まで、英語圏に向けた別の企画を進めていました。ブログ記事をPinterest向けの素材に変えるためのキット、という構想です。テンプレートを用意して、仕組みを設計して、それなりに形になりかけていました。けれど、あるとき立ち止まってレビューしてみて、いったん棚に戻すことにしました。

戻した理由は、大きく3つでした。ひとつは、需要を確かめないまま作りこんでいたこと。欲しい人がいるかどうかの確認より先に、中身づくりが進んでいました。ふたつめは、成果が出るまでに時間がかかること。買った人が手応えを得るまで3か月ほどかかる設計で、その重さに見合うのか、自信が持てませんでした。みっつめは、作り手である自分の価値観に、いつのまにか最適化されていた疑い。自分が良いと思うものを、使う人の困りごとより先に置いてしまっていた、ということです。

いま振り返ると、3つめが、いちばん根の深いものでした。自分が良いと思うものは、世界もきっと良いと思うはずだ。人はつい、そう信じてしまいます。自分の熱意が、需要の証拠のように見えてくる。けれど、熱意と需要は、別のものです。私が欲しいものと、誰かが対価を払ってでも欲しいものは、重なることもあれば、まるでずれていることもある。そして、作りこむほどに、その思い込みは強くなり、確かめるのが、だんだんこわくなっていきます。

どれも、作りこんでしまってから気づいたことでした。先に確かめていれば、もっと早く向き合えたはずのことです。

棚に戻して、代わりに選んだこと

棚上げは、あきらめとは少しちがいます。いまは出さない、というだけ。そして、空いた手で何をするかが大事でした。

代わりに選んだのは、ずっと地に足のついた題材です。明日出る、自分のKindle本。これを、Pinterestから売ってみる。派手な市場をねらうのではなく、いま自分の手が届く範囲に、ていねいに置いてみる試みです。

なぜ日本語の、自分の本なのか。理由はシンプルでした。Pinterestの利用者数は、日本では月におよそ1280万人(2025年3月時点)。世界全体の6億3000万人(2026年第1四半期時点)に比べれば、ずっと小さなチャネルです。けれど、その小ささより、自分にとっての「届く範囲」を優先したかった。私には、本があり、実験室があり、読んでくれる人がいて、書き手としての信用がある。市場の大きさより、いま現実に手が届く需要のほうを、見にいくことにしたのです。

もうひとつ。日本のPinterestは、料理やインテリア、暮らしの工夫、一覧表やチェックリストが保存される場所です。今回の本のテーマ——考える力、問いの育て方、ふり返り——は、実用的な1枚に分解しやすい。置く場所と、置くものの相性が良かった、ということもあります。

「届け方」も、実験できる

ここで、ひとつ考え方を切り替えました。プロダクトだけでなく、届け方そのものを、実験にしてしまえばいい、と。

作るものを実験するのには慣れていても、届け方は「とりあえずやる」で済ませがちです。でも、どの切り口が保存されるのか、どんな言葉でクリックされるのか、どこで人がつまずくのか。これは、やってみないと分かりません。だから今回は、配信のやり方そのものを、観察できる実験として組みました。自分のやり方を、まず自分に使ってみる。いわゆるドッグフーディングです。配信のコツを誰かに語る前に、1度、自分で最後まで通してみたかった。

自分で通してみると、計画していたときには見えなかったものが、すぐに見えてきます。どの言葉が固いか。どの1枚が、自分でも保存したくならないか。どこで手が止まり、どこを面倒に感じるか。これは、机の上で何度思い描いても出てこない種類の情報です。使う人の気持ちは、使う側に立ってはじめて、肌でわかる。だからまず、自分が最初の1人の利用者になってみる。それが、ドッグフーディングのいちばんの収穫だと思っています。

ただし、ここには正直な但し書きが要ります。本が売れたとしても、それは棚に戻したあの企画の「需要が確かめられた」ことには、なりません。本と、あのキットは、別のものだからです。ここを混同すると、都合よく解釈してしまう。今回のねらいは3つに絞りました。本が1冊でも多く届くこと。配信のやり方が効くのかを確かめること。そして、あとから振り返れる、注釈つきの実例を残すこと。売れたかどうかを、別の問いの答えに流用しない。そう決めておくと、結果を冷静に読めます。

作り込む前の、小さな確かめ

では、この回り道から、あなたが持ち帰れることは何でしょう。

ひとつは、作りこむ前に、いちばん安いやり方で需要を見にいくことです。完成品を作ってから問うのではなく、その前に。たとえば、商品そのものを作る前に、その中身を1枚の画像や短い文にして置いてみて、保存されるか、反応があるかを見る。今回の私の配信は、本にとっての宣伝であると同時に、テーマのどの切り口に芽があるかを探る、その「安い確かめ」も兼ねています。

安い確かめには、いろいろな形があります。商品を作る前に、その説明だけの1枚のページを出してみて、申し込みボタンが押されるかを見る。本文を書く前に、見出しだけを並べて、どれに反応が集まるかを見る。あるいは、欲しい人に、メールアドレスだけ先に預けてもらう。どれも、完成品を作るより、ずっと小さな手間です。大事なのは、自分の予想を、自分の外にある反応で確かめること。当てにいくのではなく、聞きにいく。その順番をひとつ変えるだけで、作りこんでからの後戻りが、ぐっと減ります。

もうひとつは、引き返す線を、先に決めておくことです。棚上げがつらいのは、引き返す基準を決めていないときです。どこまで反応がなければ、いったん戻すのか。それを始める前に言葉にしておくと、作りこんでから迷子になりにくい。やめる勇気は、根性ではなく、先に引いておいた線から出てきます。私自身、今回は、はじめの1か月は売上や率を成果とは見ない、と先に決めました。見るのは、どの切り口に小さな芽が出るか、そこだけ。基準を先に置いておくと、目の前の数字に一喜一憂せずにすみます。

遠回りを、地図に変える

棚に戻した企画は、消えたわけではありません。今回の配信でたまる数字と、注釈つきの実例は、もしいつかあの企画を作り直すなら、その中心の材料になります。遠回りは、地図の一部です。歩いた道は、無駄にはなりません。むしろ、いちど引き返したからこそ、次にどこを確かめればいいのかが、前よりはっきり見えています。

もしあなたが、いま何かを作りこみかけていて、心のどこかで「これ、誰が欲しいんだろう」という声がしているなら。その声に、いちど手を止めて耳を澄ませてみてください。作りきってから確かめるより、ずっと早く、ずっと軽く、答えに近づけるはずです。届けることも、作ることと同じように、実験できるのですから。

次の編では、その実験の中身に入っていきます。AIに作らせた1枚を、自分の好みではなく、調べた根拠のほうで作り直した話を、一緒に見ていきましょう。