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6 min read AI協働開発問い直す力

連載「AIに任せきりにしない発信をつくる」· 第15編/全21編

信じていた台帳が、古かった

同じことを2か所に書くと、いつか食いちがう

正しく指示したはずなのに、なぜか順番が狂う。原因は、しくみが見ていた台帳の日付が、原本とずれていたことでした。「どれが本物か」を決めておく——その大切さを、自社発信づくりのふりかえりから一緒に。

安宅春樹 (Ataka Haruki)

— AZASLAB代表 ・ AIエージェント開発ディレクター

— Shimizu Fumio Architects Co., Ltd. 取締役

正しく指示したのに、順番が狂う

ちゃんと正しく頼んだはずなのに、なぜか思ったとおりの結果にならない。指示を見直しても、どこも間違っていない。なのに、ずれる。そんな、きつねにつままれたような経験は、ありませんか。

AZASLAB の発信を自動化するしくみで、ブログ記事の告知を「公開した日の古い順」に作らせていたときのことです。1番目に書いた記事から順に、告知になってほしい。そう頼んでいました。ところが、できあがってくる順番が、なぜか入れ替わっている。あとに公開した記事の告知のほうが、先に公開した記事のものより先に作られてしまう。指示は「古い順」で間違いない。なのに、結果は違う。

今日は、この「正しく頼んだのに、正しく狂う」の犯人を追っていったら、思いがけない場所にたどり着いた、という話を一緒に見ていきましょう。

犯人は、指示ではなく「見ていた材料」だった

最初、私は自分の指示を疑いました。並べ替えの頼み方が悪いのかもしれない、と。けれど、何度見ても、指示そのものはおかしくない。以前 賢い自動判定が、“自分の場合”で静かに外すときという記事でも書きましたが、結果が変なときは、手順を疑う前に「何を材料にして判断しているか」まで下りてみる価値があります。今回も、そこに犯人がいました。

しくみは、記事の公開日を見て、古い順に並べていました。問題は、その「公開日」を、どこから読んでいたかです。記事の本体には、もちろん正しい公開日が書いてあります。けれど、しくみが見ていたのは本体ではなく、別に持っていた「控えの台帳」のほうでした。そして、その台帳の日付が——古いまま、更新されずに残っていたんです。

つまり、しくみは何も間違っていなかった。古い台帳を、忠実に、正しく並べていた。材料が古かっただけ。古い材料を使えば、どんなに正しく動いても、正しく間違うんですね。指示が悪いのでも、並べ方が悪いのでもなく、見ていた数字が現実とずれていた。これが正体でした。

思えば私は、結果の並び方ばかりを眺めて、その並びの“もと”になっている数字のほうを、1度も疑っていませんでした。出てきたものが変なら、つい手順を直したくなる。でも、手順がどれだけ正しくても、入れる材料が古ければ、出てくる答えも古いまま。料理と同じで、レシピが完璧でも、傷んだ材料を使えば、できあがりは傷んでいます。確かめるべきは、作り方だけでなく、その手前の「何を入れたか」のほうだったんです。

同じことが、2か所に書いてあった

なぜ台帳がずれていたのか。根っこにあったのは、「同じ情報が、2か所にあった」ことです。

公開日という同じ事実が、記事の本体にも、控えの台帳にも、それぞれ書いてあった。本来、2つはいつも一致しているはずです。でも、本体のほうを直したとき、台帳のほうを直し忘れる。すると、その瞬間から2つは食いちがいはじめる。そして厄介なことに、ずれていても、ふだんは何も起きません。順番を気にしない場面では、どちらを見ても困らないからです。問題が表に出るのは、まさに「順番が大事」になった、その1回だけ。

同じことを2か所に書いた時点で、いつか食いちがう約束をしている。

二重に持つのは、たいてい良かれと思ってのことです。手元に控えがあれば速い、便利だ、と。でも、控えを持った瞬間に、「本体と控えを、いつも一致させ続ける」という見えない宿題が増えている。その宿題は、忙しい日にこっそり溜まり、いちばん見てほしくないときに、ずれとして牙をむきます。

「どれが本物か」を、1つ決めておく

では、どうすればよかったのか。たどり着いた答えは、シンプルでした。「どれが本物か」を、はっきり1つ決めておくことです。

公開日の本物は、記事の本体。台帳はあくまでその写し。そう決めてしまえば、迷ったときに立ち返る先が、いつも1つになります。今回も、AI に頼んで台帳の日付を本体に合わせて直してもらい、私自身は「困ったら本体を正とする」と心の中で線を引きました。写しが本体とずれていたら、ずれているのは写しのほう。本体を疑う必要はない。この「正は1つ」という割り切りがあるだけで、食いちがいが起きても、どちらを信じればいいかで悩まなくなります。

これは、仕事の道具でも、暮らしの中でも同じだと思います。予定を手帳とスマホの両方に書く。住所を何枚もの書類に書き写す。同じことを複数の場所に持つほど、便利さと引きかえに、「全部を一致させ続ける」負担が増える。だからこそ、「これが本物」という原本を1つ決めて、ほかはその写しと割り切っておく。それだけで、ずれたときの立て直しが、ぐっと楽になります。

写しを持つなら、「写し続ける」をしくみにする

とはいえ現実には、写しをまったく持たずに済むことは、なかなかありません。手元に控えがあれば速い、という便利さは、やはり手放しがたい。だとしたら、写しを持つこと自体を悪者にするより、「その写しを、どう本物と一致させ続けるか」を考えるほうが現実的です。

いちばんまずいのは、本物と写しを、別々に手で直していくやり方です。変えるたびに両方をきちんと直す——これは、結局のところ人の注意力だのみで、忙しい日にはどちらかが抜ける。2つを手で揃え続けるのには、無理があるんですね。

そこで効くのが、「写しは、必要になったら本物から作り直す」という発想です。控えを別々に育てるのではなく、使うそのときに、本物から写し取る。そうすれば、写しが古びる隙が、そもそも生まれません。今回でいえば、台帳の日付を手で更新し続けるのではなく、「並べるときは、そのつど記事の本体から日付を読む」ようにしておけば、ずれようがなかった。2つを一致させ続ける努力をやめて、「片方から、もう片方をいつでも作れる」状態にしておく。これが、二重持ちと上手につきあうコツだと思います。

言いかえれば、「2つを同期し続ける」のではなく、「1つから、もう1つを導く」。同期は人の手間に頼り、導出はしくみに任せられます。同じ二重持ちでも、この違いが、ずれの起きやすさを大きく分ける。手間で守るより、構造で守る。今回の小さな事件は、私にそれを教えてくれました。

おわりに:その数字、本物と一致していますか

私たちは、目の前の台帳や数字を、つい無条件に信じてしまいます。そこに書いてあるんだから正しいはずだ、と。でも、その台帳が「いつの時点のものか」までは、案外、気にしていません。

今回の犯人は、嘘をついた人でも、壊れたしくみでもありませんでした。ただ古かっただけの、まじめな台帳です。古い情報をもとに正しく動けば、結果は正しく狂う。犯人さがしの矛先を、ついしくみや相手に向けたくなるけれど、本当に確かめるべきは、もっと手前の足もとにあることが多いんです。だから、結果が妙なときは、手順を責める前に、「いま見ている材料は、現実と一致しているか」を1度だけ確かめてみる価値があります。

あなたがいま信じて見ている数字や記録は、本物と一致しているでしょうか。同じことが、別の場所にもう1つ書かれていて、こっそり食いちがってはいないでしょうか。そして、もし2つがずれていたら——あなたにとっての「本物」は、どちらでしょうか。それを1つ決めておくだけで、いざというときの迷いが、ひとつ減るはずです。