連載「AIに任せきりにしない発信をつくる」· 第17編/全21編
「伸びない」と「届いていない」は、ちがう
感想を数字にすると、次にやることが変わる
発信が「伸びない」と感じても、それはまだ感想かもしれません。表示回数を測ってみたら、見えてきたのは「届いていない」という別の問題でした。測ってから考える、を一緒に。
連載「AIに任せきりにしない発信をつくる」· 第17編/全21編
感想を数字にすると、次にやることが変わる
発信が「伸びない」と感じても、それはまだ感想かもしれません。表示回数を測ってみたら、見えてきたのは「届いていない」という別の問題でした。測ってから考える、を一緒に。
毎日のように投稿しているのに、どうも手応えがない。いいねもつかず、返信も来ない。「うちのアカウント、伸びないなあ」と感じる。そんなこと、ありませんか。
私たちも、自分たちの発信づくりで同じことを感じていました。AZASLAB では、AIに下書きをさせて人が確かめてから出す、というしくみで X の発信を動かしています。記事の告知や、ちょっとしたヒントを毎日のように出している。なのに、伸びている気がしない。
そこで私たちは、まず中身を疑いました。文章のフックが弱いのかもしれない。書き出しがありきたりなのかもしれない。出す時間帯がよくないのかもしれない。そうやって、投稿の「中身」をあれこれ直そうとしていたのです。
でも、あるとき立ち止まりました。その「伸びない」は、まだ感想でしかないのではないか、と。
考えてみると、私たちは1度も「数字」を見ていませんでした。タイムラインを眺めて、いいねの少なさをなんとなく感じて、「伸びないなあ」と言っていただけだったのです。
これは、けっこう危ういことです。感想を出発点にすると、打ち手も感想で決まってしまいます。「フックが弱い気がする」から書き出しを直す。「時間帯が悪い気がする」から投稿時刻を変える。どれも、確かめないまま中身をいじっているだけ。直したつもりでも、本当に効いたのかは分かりません。
伸びない原因を、いきなり「コンテンツ」に求めていた。これが、私たちの最初のつまずきでした。
そこで方針を変えました。中身を直す前に、まず測る。
決めたのは人です。「自分たちの投稿が、実際に何回表示されているのかを数字で持とう」と決めて、そのためのしくみを AI に実装してもらいました。X には、自分の投稿の表示回数(インプレッション)を取り出すための公式の窓口があります。それを使って、投稿ごとの表示回数や反応を定期的に取得し、自分たちの手元にためていく。そういう小さな計測のしくみです。
測り方にも、ひとつ気をつけました。見るのは自分の投稿だけ、しかも公式に用意された窓口を通して取る。他人の数字をのぞき見るようなことはしません。そして1度きりではなく、時間を置いて何度か取りにいきます。そうすると、出した直後に少し伸びてそこで止まったのか、ずっと1桁のままだったのか、という「動き」まで見えてきます。誠実に測ろうとすると、自分に都合の悪い数字も、そのまま手元に残ります。
派手な機能ではありません。ただ、これまで「感想」でしか語っていなかったものを、「数字」で見られるようにしただけ。けれど、入れた瞬間に、景色が変わりました。
たまっていた数字は、正直、こたえるものでした。
50ほどの投稿を測ってみて、1投稿あたりの表示回数は、平均で4、中央値は3。いいねもリポストも、ほとんどゼロ。つまり、ひとつの投稿が、せいぜい数人の画面にしか出ていなかったのです。
正直なところ、もう少し見られているつもりでいました。何十人か、うまくいけば何百人かの目には触れているのだろう、と。けれど実際は、片手で数えられるほどの人にしか届いていません。思っていたのと、数字が示すのとでは、ずいぶんちがっていました。感想で見ていたものを、ここで1度、数字に置きかえたわけです。
これは「伸びない」というより、もっと手前の話でした。文章の良し悪し以前に、そもそも見られていない。フックを磨こうが、時間帯を変えようが、最初の表示が1桁なら、変わりようがありません。中身を直しても動かないはずの数字を、私たちは一生けんめい直そうとしていた、というわけです。
数字は冷たいけれど、正直です。感想で「伸びない」と言っていたときには見えなかった輪郭が、一目で見えました。
ここで言葉を分けておきたいのです。「伸びない」と「届いていない」は、ちがう問題です。
「伸びない」は、見てくれた人が反応しない、という話。中身や見せ方の問題です。「届いていない」は、そもそも見てくれる人がいない、という話。これは、中身ではなく到達、つまりどれだけの人の画面に出るか、の問題です。
私たちの数字が示していたのは、後者でした。フォロワーがまだほとんどいない、立ち上げ直後のアカウント。X は、まず身近な人に投稿を見せて、その反応を見ながら広げていくしくみだと言われます。その「身近な人」がほぼいなければ、広がる入口がない。これは、新しいお店を路地の奥に開いて、まだ誰も場所を知らない状態に似ています。料理を作り直しても、お客さんが増えるわけではありません。
中身の問題だと思い込んでいたものは、実は到達の問題だった。測らなければ、たぶんずっと気づけませんでした。
おもしろいのは、数字を1つ持っただけで、やるべきことが入れ替わったことです。
「届いていない」が分かると、打ち手は「投稿の磨き込み」から離れます。表示が1桁の段階でいちばん効くのは、文章をきれいにすることではなく、見つけてもらう入口を作ること。関心の近い人との会話や、知ってもらうための地道な動きの方です。投稿の最適化は、見てくれる人がある程度いて初めて意味を持ちます。順番が、逆だったのです。
具体的に何をするかは、また別の話です。けれど、向きははっきりしました。きれいな投稿を積むことより、関心の近い人のそばに行って一言の会話を交わすこと。プロフィールを、はじめて訪れた人が「何者か」を一目で分かるように整えること。そういう、表示回数の手前にある地味な仕事の方が、いまは効くはずだ、と。数字は「次に何を磨くか」ではなく、「そもそも、どの仕事をする番か」を教えてくれました。
そしてこれは、このシリーズでずっと考えてきた「AIに任せきりにしない」と、同じところに着地します。AIは投稿を量産できます。けれど、その投稿が誰かに届いているかを問い直すのは、人の仕事です。数字を自分の目で見て、「いま直すべきはここじゃない」と気づく。任せきりにしないとは、こういう小さな問い直しの積み重ねなのだと思います。
これは、発信にかぎった話ではないのかもしれません。仕事でも、勉強でも、「なんとなく、うまくいかない」と感じることはあります。その感覚は、見直しのきっかけになる大事な入口です。けれど、感覚のままで打ち手を決めてしまうと、見当ちがいの場所を一生けんめい直す、ということが起こります。
そんなときは、何か1つでいいので、数字にしてみる。回数でも、時間でも、割合でもかまいません。感想を数字に置きかえると、頭の中の思い込みと、実際に起きていることのあいだのズレが見えてきます。私たちの場合、そのズレは「中身か、到達か」でした。あなたの場合は、また別のところにあるかもしれません。直すべき場所は、最初に思っていたところとは、少しちがっていることが多いのです。
最後に、持ち帰れることを1つだけ。
もしあなたが、自分の発信を「伸びない」と感じているなら、中身を直す前に、ひとつだけ測ってみてください。1投稿が何回表示されているか。それだけで十分です。その数字が2桁・3桁あるなら、問題は中身や見せ方かもしれません。けれど、もし1桁なら、直すべきは中身ではなく、まず「届ける」ことの方かもしれません。
感想を数字にすると、次にやることが変わります。あなたの発信は、いま何人に届いているでしょうか。
私たちにとっての「次にやること」は、文章を磨くより先に「届ける」ことでした。次の編では、その「届ける」を会話から始めてみた話を、一緒に見ていきます。