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6 min read AI協働開発健康

連載「糖質/インスリン比 目安アプリをつくる」· 第4編/全7編

点を打つと、傾きが答えになる

グラフを部品なしで自作した話(その4)

数字の表をいくら眺めても傾向は見えない。点を打って線を引くと、その傾きがそのまま答えになる——記録を「発見の道具」に変えるグラフを、部品を使わず自作した話を一緒に。

安宅春樹 (Ataka Haruki)

— AZASLAB代表 ・ AIエージェント開発ディレクター

— Shimizu Fumio Architects Co., Ltd. 取締役

数字の表をいくら眺めても、傾向は見えてこない

記録はちゃんと貯まっているのに、肝心の傾向はちっとも見えてこない——そんなもどかしさ、ありませんか。

ここまでの回で、糖質を計算し、ICRを逆算し、TDDを記録し、治療方式の変化まで受け止められるようになりました。データはそれなりに貯まります。でも、表の数字を眺めても「今週はなんだか効きが悪い気がする」の“気がする”は確かめられない。今回は、その記録を振り返るための仕掛け——しかも外部のグラフ部品を一切使わず自分で描いたグラフの話を、一緒に見ていきます。

何をグラフにするか

最初にAIと相談したのは、「そもそも何を可視化すると役に立つのか」でした。手当たり次第に増やしても、見ない図が散らかるだけです。目的——自分のICRを見つけ、調整する——に直結するものから、4つに絞りました。

  1. 糖質 × インスリン単位の散布図 — 各食事を点で打つ
  2. ICRの推移 — 時間とともにカーボ比がどう動くか
  3. TDDの推移 — 1日の総量の増減
  4. 食前 → 食後の血糖の変化 — 打った後、血糖がどう動いたか

あなたが何かを可視化するときも、「増やせるグラフ」ではなく「目的に直結する図」から選ぶと、散らかりません。なかでも私がいちばん作ってよかったのが、ひとつめの散布図です。

点を打つと、傾きが答えになる

散布図は、横軸に糖質、縦軸に打ったインスリン単位をとって、食事を1点ずつ打つだけのもの。地味です。でも、ここに回帰直線——点の集まりにいちばんよく沿う直線——を一本引くと、面白いことが起きます。その直線の傾きが、そのままICR(カーボ比)になるのです。

考えれば当たり前で、「単位 = 糖質 ÷ ICR」という関係があるなら、糖質と単位は比例し、その係数こそがICR。だから点を打って線を引けば、自分のカーボ比が、数式ではなく目で見える形で立ち上がってきます。

しかも嬉しい副作用が。直線から大きく外れた点は、「その食事は、いつものカーボ比が当てはまらなかった」ということ。脂質の多い食事か、体調か、運動の後か。外れ値が、振り返るべき食事を勝手に教えてくれる。表を一行ずつ見ても気づけないことが、散布図だと一瞬で分かる。可視化は、ただの装飾ではなく発見の道具なのだと、これを作って実感しました。朝・昼・夕で点の色を分けているので、時間帯の癖も見えてきます。

残りの3つも、それぞれ仕事をする

散布図ばかり褒めましたが、他も違う角度で役立ちます。ICRの推移は、カーボ比を日付順に並べ、中央値を基準線に引いたもの。「じわじわ変わってきた」のか「ただばらついている」のかを区別できます。TDDの推移は日ごとの棒グラフで、前回の「方式の期間」と連動して棒の色を塗り分け、治療の切り替えが色の変わり目で分かる。食前→食後の血糖の変化は、各食事の食前と食後を一本の線でつなぎ、目標域(たとえば70〜180)を薄い帯で敷いて、収まれば緑・はみ出せば赤。

4つとも、見ているデータは同じ記録です。でも切り口を変えると見えるものが変わる。1つの記録を、いくつもの窓から眺める——それが振り返りという作業なのだと思います。

なぜ、部品を使わずに自分で描いたのか

グラフには便利なライブラリがたくさんあり、一行で出ます。普通はそれを使う。でも私はあえて使いませんでした。第1回で決めた軸に立ち返ると、すっきりします。通信しない・1ファイルで完結(外部部品は通信やファイル肥大を招く)、長く保守できる(部品は数年で動かなくなることがある)、軽さ(毎食ひらく道具は起動が軽いほどいい)。だから線や円や長方形を、SVGという仕組みで1個ずつ直接描いています。回帰直線は最小二乗法で傾きを出し、棒グラフは長方形を並べ、血糖の変化は食前と食後を線でつなぐ。原始的といえば原始的なやり方です。

自分で描くと、意味が分かる

ただ、自作には効率以上の“おまけ”がありました。自分で描くと、その図が何を意味しているのか、骨の髄まで分かるのです。傾きをどう計算するか、目標域をどう帯で示すか、高すぎ・低すぎでどう色を変えるか。一本ずつ決めて描いていると、「このグラフはこの数字のこういう側面を見せている」という理解が、嫌でも体に入ってくる。既製の部品を呼んでいたら、きれいな図は出ても、それが何を語るのかはぼんやりしたままだったはずです。

手間をかけて自分で描くことは、遠回りに見えていちばんの近道だったりします。しかも、描いていると「ここをもう少しこうしたい」という小さな要望が次々に湧く。点の大きさ、色、帯の濃さ、軸の刻み。既製品なら諦めていた調整を、自分の目に合わせて決められる。あなたも、いつも使う道具なら、1度は中身を自分の手で組んでみると、見え方が変わるかもしれません。

念のため言い添えると、何でも自作すべきだという話ではありません。ここで自分で描く価値があったのは、グラフが毎日ひらく中心の機能で、しかもその数字の意味を作り手が完全に分かっている必要があったからです。目的の周辺にある1回きりの部分まで手で組んでいたら、きっと完成しませんでした。どこを自分の手で握り、どこは出来合いに任せるか。その線引きそのものが設計で、握るべきは「道具のいちばん大事な一点」だけでいい。あなたが何かを内製するか借りるかで迷ったときも、それが中心か周辺かを物差しにすると、判断がぶれにくくなります。

動くことを、ちゃんと確かめる

もうひとつ、医療まわりの道具として外せなかったのが、計算が本当に正しく動くかの検証です。グラフの裏では傾きや中央値や差分の計算が走っていて、ここがバグると、間違った傾向を「事実」のような顔で見せてしまう。それは、ただ動かないよりたちが悪い。だからサンプルデータを流し込み、4つのグラフがエラーなく描けるか、おかしな値が混ざらないかを機械的にチェックしてから公開しています。「参考値です」と言う以上、その参考値がちゃんと計算されていることは、最低限の責任だと思っています。

おわりに:その「気がする」、確かめられる形にしていますか

今回は、4つのグラフを部品なしで自作した話でした。とくに散布図は、点を打つだけで傾きがカーボ比になる——数字が目に見える形に変わる瞬間が気持ちいい。そして、自分で描くからこそ、その図の意味が分かる。

あなたの手元にも、「なんとなくそう感じる」けれど確かめられていないこと、ありませんか。その1つを、表ではなく1枚の図にしてみる。点を打って線を引くだけで、感覚が事実の形に変わることがあります。

次回は、ここからが本当に大事なところ——インスリンの量に触れる道具を世に出していいのか。医療と規制に正面から向き合い、「あえて機能を引っ込める」という選択について、一緒に考えます。


アプリは carb-icr(無料・通信なし・ブラウザで動くPWA)。プロジェクトの概要は carb-icr のプロジェクトページ に。

本記事と本アプリは、記録と目安計算の補助です。算出・表示される値はすべて参考であり、診断・治療や実際のインスリン投与量の決定を行うものではありません。投与量・治療方針は必ず主治医の指示に従ってください。