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6 min read AI協働開発健康

連載「糖質/インスリン比 目安アプリをつくる」· 第6編/全7編

無料のまま、どう続けるか

ライセンス・ソース公開・支援の設計(その6)

良いものを作っても、続けられずに消えてしまう。「無料」を値段ゼロで終わらせないために——コスト・ライセンス・支援・ドメインで「続く形」に落とし込んだ設計を一緒に。

安宅春樹 (Ataka Haruki)

— AZASLAB代表 ・ AIエージェント開発ディレクター

— Shimizu Fumio Architects Co., Ltd. 取締役

「無料」は、値段をゼロにするだけでは続かない

良いものなのに、続けられずに静かに消えていく——そんなサービスや道具を、見たことはありませんか。

前回は、インスリンに触れる道具として「どこで止まるか」を決めた話でした。今回は、もうひとつの現実——お金の話です。第1回で「無料で、広く届ける」と決めました。でも無料は、ただ値段をゼロにすれば実現するものではありません。続かなければ、無料の意味もない。理想を理想のまま終わらせないための、地に足のついた設計を、一緒に見ていきます。

まず、続けるコストを限りなく軽くする

無料を続けるうえでいちばん効いているのは、じつは第1回で決めた「通信しない・1ファイルで完結」でした。サーバーで処理もデータベース保存もせず、すべて端末内で完結し、配信は静的なファイルを置くだけ。だから運営インフラ費が実質ゼロなんですね。利用者が増えても、サーバー代でつぶれることがない。

「無料で続けられるか」は、多くの場合「コストを誰が負担するのか」という問いです。だったら、最初からコストがほとんど発生しない構造にしておけば、その問いごと消える。プライバシーのために選んだ「通信しない」が、めぐりめぐって持続可能性まで支えてくれていました。あなたが何かを長く続けたいときも、見返りの集め方を考える前に、まず「そもそも負担が出ない形にできないか」を疑ってみる価値があります。負担が小さければ、回収を取りにいく必要もないのですから。

ライセンス:商用は不可、でもソースは公開

次に悩んだのが、ライセンス——このソフトを人がどう使っていいかのルールです。希望ははっきりしていました。商用利用は不可にしたい。誰かが勝手に売り物にするのは違う。でも、コードは公開して、計算ロジックを外から検証できるようにしたい。医療まわりの道具にとって、中身が見えることは信頼の核ですから。

ここで知っておくべきことが。いわゆるオープンソース(MIT 等)は、商用利用を禁止できないのです。OSSの定義が、用途を差別しないことを含んでいる。だから「商用不可」にした瞬間、厳密にはオープンソースではなく「ソース公開(source-available)」という分類になります。私が選んだのは PolyForm Noncommercial という非商用ライセンス。個人・非営利・研究・教育・医療や公衆衛生・政府といった非商用の目的なら利用・改変・再配布が自由で、商用利用は許可しない。ソースは公開のままなので、ロジックは外から検証できる。

ひとつ補足すると、この縛りが掛かるのは「第三者の利用」だけで、作者である私自身は制限を受けません。だから自由に配れるし、支援も受けられる。「商用不可なのに支援は受けていいの」と思われるかもしれませんが、矛盾しません。縛られるのは、受け取った第三者がそれを商売の道具にすること。作る人と使う人で、ルールの掛かり方が違う——この非対称を理解しておくと、ライセンスの選択は見通しがよくなります。

ソースを公開することには、検証できるという以上の意味もありました。中身が見えるということは、私がいついなくなっても、誰かが引き継いだり、自分の体に合わせて直したりできるということです。医療に関わる個人開発の道具は、作者ひとりの都合で止まると、頼っていた人がそのまま困る。閉じた箱として配るより、開いた設計図ごと手渡しておくほうが、道具としては長生きする。商用は止める、でも中身と改変の自由は開いておく——一見ちぐはぐなこの組み合わせは、無料のまま長く続けたい道具の落としどころとして、私にはしっくりきました。完成品を一方的に配るのではなく、直せる余地ごと渡しておく。それは、ひとりで全部を背負い続けないための作り方でもありました。

支援:もらうための土台を、先に作る

無料で配り、コストも軽い。それでも開発には時間がかかり、長く運営すれば細かな費用も出ます。そこで、任意で支援してもらえる仕組み(GitHub Sponsors)を用意することにしました。大事なのは位置づけです。これは生存のための課金ではなく、運営を支えてもらうための任意の応援。支援があってもなくても、アプリは無料のまま変わらず使えます。

前面に押し出して寄付を迫るのではなく、賛同してくれる人がいれば、その気持ちを受け取れる入り口だけは静かに開けておく。それくらいの距離感が、この道具には合っている気がしています。(このあたりは、まさにこれから登録を進めるところで、進捗はまた別途、正直に書いていきます。)

名前を持たせる:独自ドメイン

もうひとつ、地味だけれど効いたのが独自ドメインでした。最初は無料ホスティングの長くて機械的なアドレスで公開していましたが、人に「使ってみて」と渡すには素っ気ない。自分のドメインの下に覚えやすいアドレスを割り当て直しました。

これは信頼の面でも意味があります。きちんとした自分の名前の下で、安全な通信(HTTPS)で配られている。それだけで、初めて触る人の安心感は変わる。道具に、ちゃんとした住所を与える——それも続けるための一手です。住所が定まると実利もあります。ブラウザに貯めたデータはアドレスごとに分かれるので、仮アドレスから引っ越すと1度データは別物になりますが、1度きちんとした住所に落ち着けば、あとは変わらないので利用者の記録もずっとそこに残る。腰を据える場所を作ることは、利用者の記録を守ることでもあるんですね。

理想を、続く形にする

並べると、ライセンス、ソース公開、支援、ドメイン。バラバラの事務作業に見えます。でも貫いているものはひとつ——「無料で、広く届ける」という理想を、続く形に落とし込む、です。

理想は、宣言するだけなら簡単です。難しいのは、それが何年も続くように、現実の仕組みとして組み上げること。良いものを作ることと、それを続けられるようにすることは、別の仕事なんですね。両方をやって、はじめて道具は人の手元に残る。あなたにも、続けたい良いものがあるなら——作る情熱とは別に、「続く足場」を1つずつ用意しておくことを、おすすめします。

おわりに:その「良いもの」、続く形になっていますか

今回は、無料のまま続けるための現実的な設計でした。コストを軽くし、非商用でソース公開のライセンスを選び、任意の支援の足場を作り、独自ドメインで住所を持つ。理想を、続く形に変える作業です。

あなたが大切にしている活動や道具は、情熱が続くあいだだけでなく、息切れしても回り続ける形になっているでしょうか。良いものを作る力と、続ける仕組みを組む力。その両方に、少しずつ手を入れてみてください。

次回はいよいよ最終回。技術やお金を超えて、そもそも私はなぜこれを作っているのか——患者と医師の対話、そして数字を「共通言語」にすることを、一緒に考えます。


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本記事と本アプリは、記録と目安計算の補助です。算出・表示される値はすべて参考であり、診断・治療や実際のインスリン投与量の決定を行うものではありません。投与量・治療方針は必ず主治医の指示に従ってください。